points-of-view’s blog

創作イラストを。世間とずれてるブログです。

27. 読み比べ


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これは世間とずれている私のブログです。

 前回に引き続き井伏鱒二さんについて書こうと思います。
小説「黒い雨」の資料となった「重松日記」を読みました。私にとってとても興味深い内容でした。この作者の重松静馬さんはとても学のある方のようです。
まず書き出しが作家である鱒二さんよりも作家っぽい印象ですね。

人柄も温厚で誠実な印象を持ちました。人前で読経できるくらいの方です。しかも自ら提案して亡くなった方の為に読経しています。その時代にどれほどの人が読経できたのかわからないですが、本の中で読経を頼まれているのは重松さんだけなのでなかなかできない事なのでしょう。
でも、小説にした場合にはちょっと出来すぎている主人公になってしまうかなと思いました。
小説「黒い雨」の良さは登場人物の庶民的なところにあると私は思っています。
鱒二さんの書く主人公・閑間重松さんのコミカルな感じ。下の名前が重松になることで、なぜか読めば読むほど鱒二さん=重松さんに思えてきます。
物静かで頭の良いスマートなおじさんから、どこにでもいる平凡なおじさんに変化しています。

鱒二さんの庶民的な文体によりこの原爆一連の出来事が、より現実的に庶民の間で起こったのだと感じました。

「黒い雨」の中で「重松日記」と同じ会話もあるのですが、微妙に変えた部分が誰かに対してちょっと失礼だったりしていかにも鱒二さんぽいです。
夫婦の会話などはほとんど鱒二さんの創作ですね。自然体でかわいらしい夫婦です。

「黒い雨」の重松さんは面倒に思ったことは適当な事を言ってさっさと妻に任せてしまったり、ちょっとした自然な会話が面白いですね。「黒い雨」についてはまだまだ色々語りたいのですが、私の力量では長編内容をうまくまとめられないのでまたの機会に少しずつ触れたいと思います。
題材が原爆ということで読んでいない方もたくさんいると思いますが、実際に読んでみると重苦しい場面だけが続くわけではないので原爆や戦争について知るために読む本としては向いているのではないでしょうか。

今回紹介した本

黒い雨 井伏鱒二著 株式会社新潮社 昭和45年6月25日発行 
-裏表紙より-
一瞬の閃光に街は焼けくずれ、放射能の雨のなかを人々はさまよい歩く。原爆の広島-------罪なき市民が負わねばならなかった未曾有の惨事を直視し、一被爆者と"黒い雨"にうたれただけで原爆病に蝕まれてゆく姪との忍苦と不安の日常を、無言のいたわりで包みながら、悲劇の実相を人間性の問題として鮮やかに描く。被爆という世紀の体験を日常性の中に文学として定着させた記念碑的名作。

重松日記 重松静馬著 筑摩書房 2001年5月25日発行
-帯裏より-
井伏鱒二の名作「黒い雨」を生んだ原資料として知られる幻の被爆日記。自らも被爆放射能を浴びながら被爆直後の広島市内を徘徊し、その悲惨さ、残酷さを余すところなく伝える貴重な記録である。その衝撃的な内容は、井伏に筆を執らせる契機となった。同じくモデルとなった被爆軍医の「岩竹手記」および、「黒い雨」執筆の経緯を詳細に語る、26通の重松宛井伏書簡を併せて収録する。

興味のある方はぜひ手にとってみてください。2冊とも色々考えさせられる内容です。

では、ここまで読んでくださりありがとうございました。